「南の島の家づくり―東南アジア島嶼部の建築と生活」展神戸会場が始まりました。
東南アジア島嶼部は、現在の国でいえばマレーシア、インドネシア、シンガポール、フィリピン、ブルネイ、東ティモールの国からなる大小2万を超える島からなる世界最多の島国エリアを指します。
本展は、こうした地域に建つ木造建築と自然とともに暮らすことを中心に紹介するものです。
東南アジアの木造建築史では慣習家屋の全体像を紹介しています。3DCADの図面を合せることで、大胆な造形の屋根がどんな構造になっているのかも分かります。
その中でももっとも高さのある南ニアスの慣習家屋を紹介します。構造模型や内部に入り込んだパノラマ映像と合せてご覧頂けます。小さなモニタでの説明では、今も人力で巨石を運び、歓喜して高跳びを披露する若者の映像を紹介しています。こうした映像を見ていく内に、村を訪れたかのような擬似体験を楽しめるでしょう。
ここで一歩踏みとどまって、「住まい」の意味を考えてみましょう。今や住まいとは自分のものとしか考えられていません。先祖神を祀り護るための家、社会規範の中で必然的に生まれてきた形とはどういうものなのか。いくつもの空間構成を辿りながら考えてみましょう。併設される映像「家屋構造の秘密を解く」では、監修者佐藤浩司氏の説を紹介しています。
会場奥に慣習家屋の一部が再現されています。移築したと勘違いされるほどの迫力は、自然素材そのものを手で加工しているからなのかもしれません。この家屋は、インドネシア東部の小スンダ列島のひとつスンバ島の中核村ウンガ村の住宅をモデルとしています。インドネシアでも東部になると気候はぜんぜん違います。ウンガ村は島の東部ですが、スンバ島は東西でも気候が異なります。雨の多い西部では稲作、乾燥した土地の東部では馬・水牛などの牧畜がこの地の産業を支えています。
再現された家屋ではとんがり屋根の部分と高床の床下、周囲の下屋が省略されています。なにより室内に入って頂けるのがポイント!是非竹の床、雑木の床を体験してみてください。不安定ながらも何か心地よさを味わうことが出来るでしょう。
入ってすぐは、女性の空間です。本来の入口は左右の何れかになります。水甕が置いてある場所の近くが調理をする場所になります。この村には、電気・ガス・水道が通じていません。水は毎日女性が1時間以上もかけて汲みに行き、この甕に貯めておくのです。
マラプの住む屋根裏ウマ・デタ(上の家)と人間の住む高床カハルを媒介する空間です。屋根裏には金銀の装飾品や金属片、陶磁器などの先祖伝来の神器が保管されています。毎年2回、豊作の祈願と収穫への感謝をこめて、マラプに対する供犠がなされます。このとき神器を上の家から上のコルンにおろし、大きなカハルで儀礼が執行されるのです。
会場内4か所で、実際にモデルとなった建物のパノラマ写真を見ることができます。タブレット越しに模型を見ると、本物の写真と模型を同時に見ることになり、実物と虚像がひっくり返った不思議なヴァーチャル体験をすることができます。
ぐるっと見回した後で、床を見てみましょう。ずいぶんと不安定な床ですが、実は本物にはもっと隙間があるのです。正確に再現してしまうと危険なので、嘘ではない範囲に安全につくっています。
4本ある主柱にはそれぞれの役割と名前が付いています。
入ってすぐの女性の空間に面した2本の柱は女の柱です。男性の空間の2本は男の柱ですが、手前の柱は一番大切な柱として占いの柱と呼ばれ、マラプに対する儀礼はこの柱に向かって行われます。建築の際、一番先に建てられるのもこの柱です。
男の柱上部にはマムリの形が彫られています。
男の柱の間にベンチが据え置かれます。占いの柱の傍らに長老が腰かけ、マラプの声を聴くのです。
ロンタル椰子の間を抜けると「豊かな自然」のコーナーです。
ここでは、インドネシア、スンバ島とバリ島の建材を中心にどうやって材料を得て、如何に加工しているのかを分かるように展示しています。
バザール状に6つに仕切られた空間には、それぞれに屋根の葺き材と下地、壁仕上げ、各種ハンズオン模型と動画で構成されています。
竹瓦の葺き方を体験できるハンズオンです。一見簡単そうに見えますが、実はほとんどの人が出来ていません。すぐ上の屋根がお手本です。よ~く見てみましょう。ヒントはなぜ竹桟が二本づつになっているかです。
鉄木を使った木羽葺きのハンズオンです。鉄木は、日本ではウリンとして知られる超硬質木材です。無塗装でも高耐久な素材として知られていますが、硬質な故に加工が難しいのが難点といわれます。しかし、インドネシアではとても合理的な手段で使っています。
「自然と暮らす」のコーナーでは、バリ人建築家グデ・クリシュナ氏と奥様でバリ料理研究家のアユ・ガヤトリ・クリシュナ氏の著書から、実際にバリの伝統的な生活を支えてきた生活用品とともに紹介しています。工業化の進んだ今、自然と共に暮らすための方法には、日本人にも共感できるところも多いと思います。
このグデ氏の著書「台所からの革命」日本語版を刊行しました。とても素晴らしい内容ですので、是非ご一読ください。ミュージアムショップにて1冊1000円で販売しています。
これまでに紹介してきた慣習家屋とはだいぶ様相の異なるジョグジャカルタの王宮とモスクに焦点をあて、その構法と大工道具について紹介しています。まず公開されることのない貴重な修理工事現場での調査が元になっています。
扇垂木などの高度な木工技術が発達していて、やや専門的な話になってしまうので、調査をお願いした建築史家の泉田英雄先生にご講演頂く機会を設けました。技と心セミナー「王様の館の造りかた―ジャワ島の大工技術」が11月17日に開催されます。是非、ご参加ください。
ジャワ島の住宅にはこのジョグジャカルタの建築の影響が認められる例が多くあります。その空間構成を分かりやすくするため、オブジェクト・ムービーを用意しました。ご自身で操作することで、見る角度や大きさを変えたり、屋根を外し、壁を外しとだんだんスケルトン化しながら見ることが可能です。
東南アジアの大工道具は一般的に、中国系の道具を中心とした20丁ほどの道具で構成されますが、宮廷大工のそれはアジアとしては種類も豊富で数も多いといえます。
同じインドネシア国内でも、バリ島にはまた異なる道具と技術があります。そのもっとも代表的な道具である山刀とその工程を記録した映像、彫刻刀と製造工程が分かる柱模型も展示しています。
特にバリとスンバの鍛冶仕事の違いは興味深いと思います。
最後にスンバ島の大工道具と鍛冶道具をご紹介します。
身の回りにある限られた鉄素材を有効に使ってつくられた道具には、環境が整った中でつくられた製品に慣れきってしまった我々にはあまりに衝撃的です。道具にはなにが求められているのか、もう一度考え直したくなります。
この様に、これまで当館で紹介してきた匠の世界とは一風異なる展覧会に見えるかもしれません。しかし、木工を通して世界を見ようとするからには、いろいろな価値観を理解していくことが不可欠になります。そして、あらためて日本のことも見えてくるのでしょう。皆様のご来館をお待ちしています。
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