日時 2017年1月27日(金)・2月12日(日)13:30〜14:10
会場 竹中大工道具館 1Fホール
講師 石本愛子(漆芸家)


「漆彩讃歌展」開催を記念して、石本愛子さんご自身によるギャラリートークが開催されました。

木曽平沢の工房「石本玉水」にて、長年沈金家として活躍してこられた石本さん。近年では「伏漆彩沈金」という独自の技法で、色彩豊かな漆作品の制作に取り組まれています。

当館では漆をテーマとした企画展は初めてです。そこでまず漆の基礎的な話から始めていただきました。
漆はウルシの木から採れた樹液。塗料として、接着剤として大変優れた自然素材です。日本では縄文時代から長く使われ続けてきました。
東南アジアに広く分布するウルシの木のうち、日本と中国で採れる樹液は「ウルシオール」を主成分とし、特に日本産の漆は、塗料として高い品質を誇ります。ところが国内産の漆は現在流通量のうちたった5パーセントだそうで、ほとんどは中国産の漆が使用されています。
漆の採取は生育のよい5月末から10月初旬ごろ行なわれます。カマ、カンナ、ヘラといった独特の形をした道具で採取されます。一本のウルシの木からたった200gほどしか採取できません。

つぎに、制作工程と道具についてのお話です。
石本さんの手がける「伏漆彩沈金技法」には、基本的には伝統的な沈金道具が使用されています。様々な素材からできたヘラ、沈金刀、女性の髪の毛が使用された漆刷毛など、実際に使用されている道具や材料について解説していただきました。

漆パネル作品の多くは、木曽の風景がモチーフとなっています。

お客様からの質問に、一人ずつ丁寧にお答えになる石本さん。作品からは緻密さ、繊細さがうかがえますが、普段はとても親しみやすいお人柄です。

高さ1メートルを超える「鼓響春棋(こきょうしゅんき)」。沈金で細かく彩られた桜の花びらが艶やかな漆の鏡面に映し出され、花びらが舞い散る様が見事に表現された作品です。これは一年がかりで制作されたそうですが、この作品をきっかけに漆に彩りを取り入れたいと思うようになったそうです。
黒い漆塗りに金を施す伝統的な沈金は、ろうそくや障子越しの明かりなど昔の空間には映えるけれど、現代の明るい室内に置くと立体的に見えない。沈金を現代の生活にも取り入れやすいようにしたい・・・そんな思いから、色彩をふんだんに取り入れた「伏漆彩沈金」の技法を考案されたのだとか。

伏漆彩沈金による飾器たち。素地は木でできていますが、まるで金工品のような重厚感です。

15cm角の小作品は、一般の住宅にも気軽に飾れる作品として人気があります。でも最初は、大きな作品を作る前の部分的なテストピースとして作り始めたもの。何色を何回塗り重ね、どのくらいの加減で彫ればよいか、試行錯誤の過程で生まれた作品です。

数々の素晴らしい作品を手掛けてこられた石本さんですが、作品が完成したときに決して満足されることはないのだとか。伝統にとどまらず、漆の新しい可能性に貪欲に挑み続ける姿勢が、次の作品を生み出す原動力になっているのですね。ますます、今後のご活躍が楽しみです!

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