12木を生かす
樹齢千年のヒノキを使えば、建物は千年もつといわれている。法隆寺には千数百年前の建物が残っていて、飛鳥時代の大工たちが木と建築に取り組んだその心をいまの私たちに伝えている。木の強さやクセを見抜けないと丈夫な建物はつくれない・・・。代々の棟梁に伝えられた口伝には、現代の建築が忘れていた木の心を知り、木と肌で触れあう職人の知恵が生き続けているようだ。
「木を買わず山を買え」という言葉がある。同じ山で育った木で一つの塔をつくり堂をつくれという教えである。木曽の木と、奈良や四国などの木をいっしょには使わない。いくら同じ種類の木でも環境が変われば性質も微妙に違ってくるためで、その性格の違いがやがては建物にくるいやひずみを生じさせるからである。たんに建築材料の一つとして木を見るのではなくて、深い山の中で雨風にさらされて呼吸してきた生命ある木として用材を見きわめないと、一人前の大工や棟梁にはなれないということである。いっぽうでは「木を知るには土を知れ」ともいわれている。
木を伐るにも時期がある。「木6竹8」といわれ、旧暦の6月に木を、8月に竹を伐るのがいいそうである。6月は太陽歴ではいまの8月となり、この時期を過ぎると木は越冬の準備をするためにこのときに伐るのがいい。養分を十分に吸いとってこれからみのり出すという時である。8月はいまの10月になり闇の日に伐るそうだ。月夜の夜に伐ると虫が入るといわれている。
峠の木は強いし中腹の木は適度によい。谷の木は柔らかい。山の向むきによっても、北側に生えた木は柔らかいから造作材に、南側の日当たりのよいところで育った木は材質が非常に堅いから柱にとなる。
同じように見える木々も一本一本に微妙なクセをもっている。このクセを大工たちは「木の心」という。木を殺さず木のクセや性質を生かし組み合わせて、はじめて何百年もの風雪に耐える建物をつくる基本になる。これを「堂塔の木組は木の癖組」という。いつも同じ方向から風が吹く所で育った木は、その風に対抗するように働く力がある。そのクセを生かして上手に組むということで、右ねじれと左ねじれを組み合わせれば、部材同士が組合わさってしっかりするわけである。右ねじれと右ねじれを組めば、その塔は長い年月の間に右へねじれていく。
*この文章は『竹中大工道具館展示解説』から抜粋したものです。
参考資料
「斑鳩の匠 宮大工三代」西岡常一、青山茂
「木に学べ」西岡常一
「大工道具の歴史」松村貞次郎