9気違いの遊び
奈良・斑鳩の法輪寺のそばに小川三夫棟梁の仕事場がある。小川さん(昭和21年生)は、法隆寺、法輪寺、薬師寺等の再建で有名な西岡常一棟梁の直弟子である。小川さんは、栃木県矢板から高校の修学旅行で薬師寺に来て、その場で弟子入りを願って断わられている。
やっと弟子入りを許された小川さんが、西岡棟梁のもとで修業中に、勉強のために法隆寺五重塔の模型作りを思い立った。同輩と二人、仕事の暇を見つけては夜業をする日が3年近くも続いた。縮尺は1/20、昭和の大修理の時の実測図を基に、細部の木組1本1本まで忠実に寸法をとり、仕口を刻んで精密に復元されている、
「初めは遊びのつもりだったけれど、これは気違いの仕事だった」
「やるからには、とことん気がすむまで力を入れた。こんな所まで見てくれる人もいないのに」
「遊びもここまでくれば面白いぜ」
「男の仕事だ」
–もう一つ作ってもらえますか?
「いやー、もう駄目、若かったからね」
「嫁さんもらって、酒の味を覚えたら、もう駄目、根気が続かないよ」
斑鳩の里は春たけなわ、蓮華の花が真っ盛りであった。
この読み物は、当館の開館1年前(1983年)に大工道具館設立の意義を広く伝えることを目的に、元副館長・嘉来國夫ならびに元館長補佐・西村治一郎の2名が主となり、「道具・よもやま話」と題して竹中工務店社報(1983年発行)に連載したものを、改めてここに転載したものです。20年以上前の記述のため、古くなった内容もございますがご容赦下さい。