日時:2010年10月9日(土)9:00ー17:30
場所:奈良(薬師寺・法隆寺・法輪寺)
講師:小川三夫(鵤工舎前舎主)
西岡常一棟梁の唯一の内弟子であり、現代を代表する堂宮大工棟梁・小川三夫氏を講師に迎え、奈良の古寺(薬師寺・法隆寺・法輪寺)を巡る見学会が開催されました。
当日はあいにくのお天気で、雨が降りしきるなか、まずは薬師寺を拝観しました。
薬師寺では、創建から1300年の時を経て現存する東塔と、西岡棟梁と小川棟梁によって創建当時の姿に再建された西塔を中心にお話をしていただきました。
心柱を中心とした塔の構造や屋根の形状など、堂宮大工ならではのお話に参加者一同納得の表情でした。
普段はなかなか入ることのできない西塔の中も拝観させていただきました。
薬師寺拝観後のバスの車中では、西岡棟梁に弟子入りされた時のエピソードや、修行時代のお話をしていただきました。西岡棟梁は「名工の鍛えた道具にこだわらず、そこらで買ってきた物を使っていた」「堂宮大工は道具がなくても建物をつくる位の根性がなくてはいけない」と考えていたのだろう、と小川棟梁は言います。そして西岡棟梁の一番の教えは、「切れる刃物をつくる」ということだったそうです。
続いて向かったのは、法隆寺。
法隆寺は、小川棟梁が高校の修学旅行で訪れ、堂宮大工を志すきっかけとなったお寺です。現存する世界最古の木造建築群である法隆寺と、20年ごとに式年遷宮をすることを前提とした掘立構造の伊勢神宮を比較し、「一番感心する、勇気ある大工は最初に柱を礎石の上にのせた人」と、礎石に木の柱をのせることで、建物の寿命が延びることを発見した飛鳥時代の工人の知恵と技を称えました。
西院伽藍を拝観した後、西岡棟梁が初めて棟梁を務めた礼堂のある東院伽藍まで足をのばしました。
見学会の最後に訪れたのは法輪寺。
西岡棟梁に弟子入りを許された小川棟梁が初めて現場を任されたのが、法輪寺三重塔の再建工事でした。この塔は、法隆寺の五重塔の「初重・三重・五重」を重ねたもの。しかしそれでは三重目が潰れてたように見えてしまうので、二重目を5寸ほど縮めるという工夫をしたそうです。
このような建設時のエピソードに加え、西岡棟梁の教育方法についてもお話くださいました。「西岡棟梁は、丸太をはつる時、一部はつってはころがし、また一部はつってはころがし、最後はトラ刈りになった丸太ができる。これは自分が休みの時にやっておきなさい、ということです。できないからと言って教えるのではなく、手本を示し、弟子にやらせる、これが西岡棟梁の教え方です。」ヒントを示し、チャンスを与えることで人は大きく成長する。そして一度弟子に任せたら信頼して余計なことは言わない。そして弟子がそれに応えようとすることで成長していく。これが西岡棟梁から小川棟梁に、小川棟梁から鵤工舎の皆さんに受け継がれていく堂宮大工の教えなのでしょう。
講堂内では副住職様に三重塔焼失時のお話やご本尊である薬師如来坐像をはじめ重要文化財に指定されている美しい仏像群についてのお話を伺うことができました。
この見学会には、北は千葉県、南は愛媛県など全国各地からの参加者にお集まりいただきました。残念ながら雨に降られてしまいましたが、小川棟梁の解説を聞きながら奈良のお寺を巡るという、滅多にない機会をお楽しみいただけた様子でした。この見学会には募集人数をはるかに上回るご応募をいただき、大多数の皆様に御断りをことになってしまい、申し訳ございませんでした。今後このような見学会を随時開催していきたいと考えておりますので、またの機会にお参加いただければ幸いです。
次回の小川棟梁のトークイベントは11月28日(日)に産業技術記念館で開催いたします。また、名古屋工業大学大学院教授の麓先生と「尾張三河の大工棟梁とその作品」を巡る見学会は12月11日に開催されます(要事前申込)。
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