道具よもやま話

2親子鍛冶

 兵庫県の三木は、江戸時代からの刃物鍛冶の町である。今日ではその生産が殆ど機械化されている中で、昔ながらの手造りの鋸鍛冶の名工・2代目宮野鉄之助(明治34年生)さんがここにおられる。

日本古来の製法の砂鉄から作られた和鋼で鋸を鍛え上げられる人は、今日ではこの人だけであろうといわれている。宮野さんには3人の息子さんがおられるが、この3人がそれぞれ独立して、立派に家業をまもっている。全国の道具鍛冶が後継者を失い、電動工具に追われて消えていく中で、心温まるご一家だ。

昨年春、会津に鉋鍛冶の名工・4代目日下部重道(明治38年生)さんを訪ねたところ、一人息子は別の仕事を選び、身の回りの世話をしてくれていた頼みの息子の嫁にも急逝されて、仕事を続ける気力も絶えて、薄暗い座敷の隅に、空ろな顔でうずくまっておられた。

それにつけても、大工道具館の資料映画撮影のために勢揃いした宮野さん親子一家は見事だった。炉脇の横座に構えた父と、それに対する3人の先手の息子たち、揃いの衣装・ぴたりと意気の合った槌音が高らかにリズムを奏でていた。

この読み物は、当館の開館1年前(1983年)に大工道具館設立の意義を広く伝えることを目的に、元副館長・嘉来國夫ならびに元館長補佐・西村治一郎の2名が主となり、「道具・よもやま話」と題して竹中工務店社報(1983年発行)に連載したものを、改めてここに転載したものです。20年以上前の記述のため、古くなった内容もございますがご容赦下さい。