錐[kiri]
きり
きり
揉み錐は往復回転運動させながら孔をあける道具ですが、反対に連続して回転を与えて孔をあける道具がボールト錐、クリコ錐です。これらの錐は幕末から明治にかけて、西洋の機械技術とともに入ってきた道具の一つです。ボールト錐は英語でScrew Augerと呼ばれる道具で、先端に刃先があり、軸を螺旋形にすることで切り屑が容易に排出できます。この孔に通すボルト、ナットも螺旋形状の応用したネジです。ネジの発生をさかのぼってみますと、西洋ではピタゴラス派の哲学者であり数学者であるタラスのアルキタス(前400年頃)が発明したと考えられています。具体的には、ポンペイの遺跡にあるフレスコ画のなかの圧縮機に円柱形のネジが描かれています。
日本では、螺旋の形をした錐が古代に見られますが、ネジの考え方まで応用するには到らなかったようです。ボールト錐はT形につけたハンドルを回転させて使います。この回転運動をもっとスムーズに行なえるようにした錐がクリコ錐です。幕末には入っていたようで、明治には曲柄(ブレース)錐、刃先を鑿錐(ビット)などとも呼ばれました。クランク形状が連続回転を与えるのに有利なことは西洋の知恵です。このクリコ錐の発明は15世紀のヨーロッパでなされたと報告されています。ネジといい、クランク形状といい日本人は回転運動に敏感でなかったようです。しかし、これらを見た当時の日本人の驚きはどうだったのでしょうか。創意工夫について大いに刺激を受けたと思います。
わが国では伝統的に釘穴をあける時などに手揉み錐を用いてきましたが、明治に入り洋風建築とあわせてボルトを用いた接合法が導入されると、ネジの形をしたボールト錐が使われるようになり、これによって太くて深い穴があけられるようになりました。